「一人前になるには経験が必要」
みなさんはこの考えについてどう思いますか。私にとってこの事について考えさせられる一日が、先日ありました。
小5の授業でテキストを使い読解問題で「手に職をつける」とはどういうことなのかを説明してある文章を扱い、「免許証をもらうということは手に職をつけるための出発点にすぎません。だから、本当に手に職をつけようと思ったら、様々な経験をし、努力を重ねなければならない」という結論でした。授業をしながら、私も「その通り!」と思いながら生徒達には「いろいろな事にチャレンジし、これだけは人に負けないと自負できるものを見つけて欲しい」と伝えました。生徒達も著者の主張に賛同していました。
そして、次の日、中3の授業で文章要約に使う題材で同じような事が書かれていました。勿論、中3生の教材なので小学生よりは理論的に書かれており、「現代の知識は昔と違い、技術そのものになっており、情報化された一種の知識の組み合わせになってきている。だから、職人とよばれる経験を元に知識を得てきた人は時代に取り残されてしまう」と筆者は述べていました。また、こういう時代の流れだから、免許証をもらえば技術はそれで完全に習得されたことになってしまう傾向にあると書かれており、私は少し違和感を覚えました。確かに、現代はAIが様々な分野に導入され、必要な知識はAIでまかなえてしまいます。実際、近い将来、人間の仕事の半数がAIに変わってしまうとも言われています。
しかし、知識だけで仕事は成り立つのでしょうか。例えば、教師という職業、自分が得た知識を伝えるだけで「いい授業」と言えるでしょうか。私の答えは「No」です。やはり、そこには経験に基づく知識の伝え方だったり、生徒一人一人の表情や気持ちを読み取り何が必要かを適切に判断する力が必要になってきます。それはAIにはできないことだと思います。個人的な話になりますが、この仕事を始めてもう15年以上経ちますが、今思えば最初の頃はテキストに書かれていることしか言えないつまらない授業をしてたと思います。そこから経験を重ね、入試やテストの出題率の高い問題をよりスムーズに伝えるにはどうしたらいいのかを試行錯誤しながら今までこの仕事を続けてきました。多くの先輩の先生方の授業を見さしてもらい、知識や技術を学び自分のモノになるようにしてきました。自分の授業がいいと思ったことは一度もなく、まだまだ生徒達のためにやれることはたくさんあり、自分自身努力を重ねないといけないと常々思っています。そういう思いで今までも授業をしてきました。そして、今日も、これからも同じ思いで授業をしていくと思います。そういう思いはいろいろな経験を通して感じるもので、AIには決して真似できるものではないと思います。
「職人」とよばれる方々は、知識はもちろん、経験に基づくいろいろな思いや適切に判断する力がずば抜けていると思います。そういう「職人」が時代遅れと称させる時代は物寂しい気もします。先進技術と人間の付き合い方を考えさせられる一日となりました。
長津